いつか誰かの世界を変えたい

浪人生だった医学部生のブログ。

浪人が決まった日 或いは『できることならスティードで』を読んで

三月九日。九時過ぎに大学の合格発表を見て、不合格で、あぁやっぱりなと再度ベッドにもぐりこんだ。結局、私がベッドから抜け出せたのは正午を過ぎた頃だった。

朝ごはんに、ヨーグルトと母が作ったオムレツを食べた。

母と担任の先生に結果を連絡して、それからはひたすらリビングでテレビを見ていた。内容はほとんど頭に入ってこなかった。

二時過ぎに、遅めの昼ごはんにした。スープはるさめを食べた。

このままぼんやりしているには心が落ち着かなくて、前日に買ったシゲアキさんのエッセイ集を出してきた。『できることならスティードで』。逃げるように表紙を開いた。

ページをめくるとキューバだった。行ったこともないキューバに、私はいた。その後もシゲアキさんの頭の中にお邪魔して、大阪に、京都に、スリランカに、ニューヨークに、色んな場所を巡った。食べて、釣りして、歌って、踊って、料理して、考えて。

掌編小説のある仕掛けに、彼が以前書いた短編を思い出した。ずるいよシゲアキさん、と思ったけれど、この人が自担なのだと無性に嬉しくなった。

それからあとがきを読んだ。本を閉じて、表紙を見返した。

私は家のリビングのソファに座っていた。帰ってきたのだ。

随分たくさん連れ回していただいたおかげで、その頃にはすっかり気持ちも晴れていた。もう夕方だった。

ふと、どこにでも行ける、と思った。そうだ。私次第でどこにでも行けるのだ。期限なんて無理に決めなくていい。今回はシゲアキさんに連れて行ってもらったけれど、次は一人で。

「私にできるかな」「愚問だよ」